今年前半の東京在住の時は、毎週のように図書館に通い、本とCDを貸出制限一杯まで借りて、ありとあらゆるものを読んで聴いていた。そうなると借り方も聴き方も片っ端からという按配で、いい加減で大雑把になってしまって、あまり心に刺さるものも少なかった。その中でも幾つか耳を傾けさせる力を持つものがあった。
一つ目、The PoliceのCertifiable(DVD)。
キャッチーなメロディで、ノリの良い曲が多いことから、シアトル時代にドライブをする際に良く聴いていたのだが、今年初頭に2枚組みのベスト版を聴いて、その良さを再認識して、色々と聴くようになった。そして、改めて音質的に良い環境で聴くと、フロントマンのスティングだけでは創り出せない、バンドメンバーが複合的に絡み合って創出される良さがあるということが浮き彫りになった。
ボーカル&ベース、ギターとドラムという3人編成ながら、これだけ濃度の高い音楽を奏でるのは、それぞれの力量の高さの表れなのだが、その中で最も鍵を握っているのは、実はドラムのスチュワートコープランドなのでと確信するようになった。
この人、技術的にはそれほど難しいことはしていないかもしれない。
が、生み出すグルーブ感が半端でないのだ。
レゲエリズムのロックへの導入ということで、The Policeは形容されることが多く、事実そうなのかもしれないが、リズムという意味では、ハイハット、リムショットを随所に組み入れて、強弱をつける事によって、シンプルながら飽きることの無い、スパイスの効いたスリリングさを醸し出しているのは、間違いなく、この人。そんなことを再確認できるのが、再結成ツアーを収録したCertifiableだ。
ここで、楽しそうに活き活きとドラムを叩き、フロントの2人を鼓舞する姿を見て、彼の存在感の大きさを思い知った次第。往年のスタイルに比べると、切れのあるハイハットが聴けなくなったのは残念ではあるが、それを補って十分なグルーブ感を依然として保ち続けているし、スティングもアンディサマーズもいい意味で年をとって大人のロックを聴かせてくれる。
また、3人のThe world is running downのインプロビゼーションでスティングがブイブイとエレキベースを弾く姿も見ものではある。スチュワートコープランドについては、また別途書いてみたい。
二つ目、またしてもスティング&ドラム絡みになってしまうが、Chris Botti in Boston(CD/DVD)も良かった。
スティングを筆頭に、ヨーヨーマやらジョンメイヤー、そしてエアロスミスのスティーブンタイラーといった豪華キャストがChris BottiバンドとBoston Popsをバックに歌うというバラエティに富んだコンセプトもの。
はっきり言って、主役であるはずのChris BottiやBoston Popsは、ゲストを立てて敢えて裏方に回ったためか、演奏では目立つことなく、Boston Popsにいたっては、映像には表れるものの、見るのもかわいそうなほど音楽的な出番が無い。その大人数オーケストラよりも遥かに大きな存在感を示したのが、Chris Bottiバンドのドラマー、Billy Kilson。
随所にメリハリの利く、目を見張るタイトなドラムを聴かせ、歌伴でも抑揚と気の利いた演奏と幅広いスタイルへの柔軟性を見せ、もっと聴きたいと思っていると、DVDの最後に先のCertifiableにも収録されているThe world is running downの演奏が含まれていて、彼がフィーチャーされいるのだ。そこでの演奏たるや絶妙なテクニックに加えて阿修羅と仁王が一緒になったかのように、鬼気迫る勢いで手数多くドカドカと切れのある太鼓を叩き、口をあんぐりするほど唖然として見るしかない(後ろに映るボストン交響楽団の方々もそんな感じで観ているようだ)。いずれにしても彼の存在があるからこそ最初から最後まで飽きずにこのDVDを観させてくれるのは間違いない。
Billy Kilsonは、ドラマーに相当なこだわりを持つ大ベーシスト、Dave Hollandのバンドでも叩いていたようで、既に業界でも太鼓判を押されたプレイヤーの一人なのだろう。これからも注目したい。
三つ目、Where the Light Is: John Mayer Live in Los Angeles。
初期のメロディックな曲の一般的なヒットからアイドル的な人気を誇るJohn Mayerではあるが、実はギターが物凄く巧いのだ。最近は渋みのある、音楽敵にも凝ったつくりで、そのセンスがなかなかいけている。硬派なバンドメンバーを引き連れたトリオアルバムを発表していることで、注目をしていたのだが、このDVDを観ると
冒頭は、アコースティックギター一本の弾き語りで始まる。
イントロダクションのベースラインのビブラートを多用したアプローチやその後のコード進行は、超絶ジャズギタリストで「一人バンドマスター」のTuck Andressによる歌の伴奏時のそれを髣髴されるもので、かなり色々と研究しているんだろうな、と感じさせるし、それを歌いながら弾きこなしてしまうところに凄みがある。
その後に徐々に人数を増やし、ギターデュオ、ギタートリオ、エレキギターに切り替えてのベースとドラムを従えたトリオ、そしてフルバンドと徐々に盛り上がって締めくくるという形。
リラックスしたジーンズ&Tシャツ姿でのギタートリオでは、Tom PettyのFree Fallingの選曲がいいし、正装に切り替えたベース&ドラムトリオでのJimi Hendrix、Stevie Ray Vaughan的なボーカル&ギタースタイルもベテラン二人のスパイスの利いたアドリブもあり、見ていて飽きが来ない。ここは、Jimi HendrixのWait until tomorrowが聴き物。John Mayerはジミヘンのスタイルを踏襲しているのだが、ドラムやベース、ギターソロがジミヘンバージョンよりもモダンで面白い。何曲か演奏される巧みなブルースも同様に、泥臭いというよりは、モダンなアプローチ。
このギターとの一体感、自由自在さというのは、Jimi Hendrixや、Stevie Ray Vaughan、Eric Claptonのレベルに達しているのではないかと思わせるほど。そしてギターのリフからは、この3人の影響と、本当にギターとブルースが好きなんだという想いが伝わってくる。
個人的には、彼の渋みのあるオリジナル曲が好み。
音楽だけではなく、画像の質もChris Botti同様に高いし、インタビューを交えながらの進行という企画も良く出来ていると思う。
最後は、Tim RiesというSax Playerの、The Rolling Stones Project。
Rolling Stonesのツアーに同行したSax PlayerによるStonesのカバー曲集で、StonesのメンバーやNorah Jonesを筆頭とする豪華な協演陣によるもの。
Saxのスタイル自体は、どちらかと言えばフュージョン的で、好みのタイプではないのだが、楽曲のアレンジ、演奏の質の高さ、そして音質(SACD)が素晴らしい。大好きなBlian BladeやBill Frisellも、随所に登場して個性豊かな演奏を奏でるのではあるが、ここでの聴き所は、Stonesメンバーの渋み溢れる演奏。Honky Tonk Womenでの、Charlie Wattsのジャズのアプローチを取ったシンバルの響かせ方が心憎いドラム、Slipping AwayでのKeith RichardsとRonnie Woodの貫禄に満ちた絡み合うギターを聴いて改めてStonesのアルバムを聴きかえしたくなった。高解像度な録音が、Stonesメンバーの繊細な演奏を見事に捉えているという背景もあるのだろう。これには、第二段が出ているようなので、是非聴いてみたい。
今年期待していた、Jamie Cullumの新作The pursuitは、前作と同様の路線を踏襲したためか、作品の完成度は高いと思うが、期待値が高いだけに、真新しさにかけてしまい印象が今ひとつ、佳作といった評価。普通に楽しめる。
ちなみに、Chris Botti、John MayerとJamie Cullumを結びつけるものを一つ発見した。
夭折の天才と形容される、Jeff Buckleyを3人共に評価しているようなのだ。Chrisは先のDVDで、偶然にもデビューアルバムを二人が同じ時期に同じスタジオで製作していたというストーリーを話してトリビュート曲を演奏しているし(Leonard Cohen's Hallelujah)、Jamieは、Twentysomethingでカバー曲(Lover, you should have come over)を発表しているし、Johnもお気に入りの曲の一つに彼の曲(Last Goodbye)を取り上げている。今度は、Jeff Buckleyを聴いてみよう。
昨年春に来日して、Cotton Clubで久しぶりに満足の行くファンキー&エキサイティングな演奏を繰り広げたJacky TerrassonのConcord移籍第一弾、Pushについては未だ聴いていないので、これがどうかというのが今年最後の楽しみかも。